神谷カザネの絶望

二人の少女が森の中で会話をしている。
一人は金髪ロングでセーラー服を着た少女、
もう一人はピンクがかった髪に黒と白のドレスをまとっていた。
二人は地図を見ながら次の行き先について話しているようだ。

「で、これからこの商店街に向かおうと思うの。
 きっと、私の仲間も自分の世界に近い場所に行くと思うから。
 サーディも当然来るでしょ?」
「ええ、そうするわ」

金髪の少女がにこやかに話す。
それに対しサーディと呼ばれた少女も微笑んでこたえた。
ゲームが開始したのが2時間程前、
そして、二人が出会ったのはつい30分程前だった。
その割に、二人はずいぶんと打ち解けているように見える。

「いやー、でもサーディがシノブの変身道具を持っていて本当によかったよ」
「(よかったね、カザネ)」
「だよねー」
「?」
「ああ、何でもないよ。ちょっとアリアちゃんと話してただけだから」

彼女、神谷カザネは変身ヒロインで、彼女の中には宇宙人がいる。
その宇宙人、ショット=アリアは彼女の友人だ。
アリアのおかげで、カザネはこの「突然のゲーム」の中でもすぐに平静に戻ることができた。

カザネとサーディが打ち解けた理由は簡単だ、
きっかけはサーディが持っていたフィンガーグローブ。
それはカザネの友人で、同じく変身ヒロインであるシノブの変身道具だった。

カザネとサーディが出会ったとき、ショット=アリアがそのことに気づき、
その後しばらく自己紹介や交渉を行った結果、、
・二人の間に友好関係を気づき、キング打倒を目指すこと
・サーディが持っている変身道具(グローブ)をそれを扱える友人と合流したら渡すこと
を約束したのだ。

その際に、
「自分が変身ヒロインであること」「アリアという友達が自分の中にいること」
「友人(シノブ)も変身ヒロインであり、変身にはそのグローブが必要なこと」など、
カザネは自分のことについて誠実に話している。
きっと現実世界ではとても信じてもらえないような話だろう。
だが、さすが魔法のある世界の住人。サーディは素直にそれを受け入れていた。

「よーし、じゃあ商店街に向かって出発進行!!」
「うん、そうだね。出発しようか」
「(カザネ、あまり大声をださないで、
  敵が近くに潜んでいるかもしれないわ)」
「はいはい、わかりました。もー、アリアちゃんは心配性なんだから」

先頭をきってカザネは歩き出す。
手には支給品の武器を構え、とっさの準備も万全だ。
サーディも両手に二本の刀を構え、それに続く。



カザネは歩きながらふと思う。
”そういえば、どうしてサーディは支給品を二つ持っているんだろう”と、
刀が二本で一セットだったとしても、
サーディはシノブの変身グローブと合わせて二つの支給品を持っていることになる。

カザネはサーディへ振り返りながら尋ねる。
「そういえば、何でサーディは支給品を二つ…」
「(カザネ!危ない!!)」

不意の出来事だった。
カザネが振り向いた先に見たものは、
自分に斬りかかるサーディの姿だった。

「くうっ!」

カザネはとっさに後ろに飛び跳ねる。
しかし寸での所で間に合わず、肩から胸にかけて傷を負った。
傷口からセーラー服が赤く滲んでいく。
もし避けていなかったら肩口から真っ二つにされていただろう。

「痛っ!!」

カザネはバランスを崩して尻餅をつく。
其処へさらにサーディの容赦ない突きが迫る。

「くっ!!」

カザネは体を転がしてその突きを避ける。
そして何とか間合いをとった。

息を切らしつつカザネは問う。
「…どういうこと」
気が動転しているカザネを横目に、サーディがうそぶく。
「ふーん、今のを避けるんだ。思ったよりやるわね」
「どういうことよっ!!」
激昂するカザネの姿をみながらサーディは続ける。
「まず一つ目の質問に答えるわ。
 私が支給品を二つ持っているのは、…既に一人殺しているから」
「!!!」
「そして何故あなたを襲ったかは、
 ……ただ、あなたの苦痛にゆがむ顔が見たかったからよ」
サーディが微笑む、だがその笑顔は先ほど見せたものとはまるで違う、邪悪な笑みだった。
「そんな…、何で…、さっき約束したじゃない」
「そう、…それで?話は終わりかしら」
サーディが再び剣を構える。
「(カザネ、しっかりして!この子は今カザネを殺そうとしたのよ!)」
カザネは未だに事態を理解しきれない、しかしこのままではまずい!!

「くっ、変身っ!!」

バッ!

カザネは条件反射的に変身を行おうとした。
しかし、いつもなら溢れ出てくるはずの光が出てこない。
「…残念でした、あなた自分で言ってたわよね。“変身道具が無ければ変身できない”って」
カザネは苦い顔をする、今の自分は奥の手が封じられているのだ。
「…ならばっ」
カザネはサーディに背を向けると森の中を走る。
いくら相手が殺し合いに乗ったのだとしても、カザネは人を殺したくなかった。
変身ができない今。サーディを倒すことはできても取り押さえるのは困難だろう。
それならば逃げるのが最善の策だ。

「ふふふ…。逃がさないわよ」

ヒュンッ!

風をきる音がした。サーディが刀を投擲したのだ。
「あうぅっ!」
カザネの足に激痛が走る。
地を蹴り損ねたカザネは前のめりに地面へ倒れこんだ。
「うっ、うあぁぁぁぁあぁ!!」
サーディが投げた刀はカザネの右ふくらはぎを貫通し、スネへと抜けていた。
その現実をつきつけるように、刀身から赤い血が滴り落ちていく。
「(カザネッ、カザネッ、しっかりして!!)」
ショット=アリアの声を聞き、カザネはどうにかして痛みと動揺を押さえ込む。

焼け付く様な痛みの中、カザネは何とかサーディの方を向く。
サーディはカザネのその苦痛に悶える姿を見て小さく笑みを浮かべた。
「さあ、逃げられないわよ」
そしてもう一つの刀を構え、動けないカザネに向かってゆっくりと歩き始める。

「(カザネ、もうやるしかないよ。じゃないとカザネが殺されちゃうよ!)」
「そうみたいね…」
カザネは大きく一つ、息をつく。
「ありがとう、アリアちゃん」
覚悟は、決まった。

「動かないで!!」
カザネは崩れた体勢のままサーディに武器を向ける。
それを見てサーディは歩みを止めた。

その武器がカザネの支給品。
競技用ボウガン、MC-1であった。
競技用とはいえ、殺傷力は十二分。
鎧を着ているのならともかく、サーディの服ならば容易に致命傷を与えられるだろう。

「…サーディ、ここから離れて。もし一歩でも近づいたら、…容赦なく撃つわ」
それを聞いて、サーディが笑う。
「ふふふ…、じゃあ撃てば?」
一歩進む。
「こないで!」
もう一歩。
「こないでよ!」
そして、さらに一歩。
「こないでってば!!」

ダンッ!!

ボウガンから矢が射出される。
カザネはその瞬間、目をつむっていた。
覚悟をしたとはいえ、やはり人が死ぬ瞬間は見たくない。
ましてや、つい先ほどまで仲間と信じていた人間ならば。

ギィン!!

「…嘘」
距離は15m程だったと思う。
常人の反射神経ではとてもかわせない距離のはずだった。
そう、かわせないはずの距離だった。

「ふふふ…、やっぱり軽くていい剣ね」
ボウガンの矢はサーディに空中で叩き落とされていた。
「これなら首飾りが無くてもそこそこ戦えそうだわ」
サーディはカザネの驚く顔を見て邪悪に微笑む。

カザネは呆然とサーディをみつめていた。
「(カザネ、しっかりして!カザネ!)」
ショット=アリアが必死に呼びかける。
だが、たとえその呼びかけに応えられたとしても、
彼女が次弾を装填する暇は残されていなかった。

15mの距離はサーディにとっては一瞬だ、
弾ける様な速度でサーディはカザネに近づく。

ザシュアッッ

「あっ、がっ、あ、ああぁぁぁぁぁあ!!」
「(カザネーッッ!!!)」

あっという間に距離を詰められ、
カザネは利き腕である右手を串刺しにされた。

「あは、あははは、いい、その顔すごくいいわ…。
 さあ、殺してあげる。苦しんで、苦しんで、死になさい」

………
……


今、何回刺されたのだろうか。
自分の体に突き刺さる剣を見て
神谷カザネはぼんやりと思う。

時間の感覚も、痛みの感覚も、ひどく遠い。
アリアの声も段々と遠くなっていき、今ではもう聞こえない。
段々と自分の思考力が麻痺していくのを感じる。

ひどく寒い。
夢なのか幻覚なのか、親しい友人や親、アリア達の姿がカザネの目の前に浮かんでは消えていく。
…やがて目の前にピンク髪の少女が現れた。カザネはこの子は誰だろう、と虚ろ(うつろ)な頭で思う。
その少女は刀を大上段に構え、嬉しそうになにかを言う。
何をいっているのかは、もうカザネにはわからない。
(これは、夢…だよね。)
そして、少女の白刃が振り下ろされた。

カザネの夢は、二度と醒めなかった。



ズズッ、ズズッ、ズズッ

サーディがカザネの髪を掴み井戸の前まで引き摺っていく、
「よいしょっと」
そして、その体を深い井戸へと放り投げた。
かつてにこやかに話をしていた少女は、力なくその闇へと落ちていく。
「バイバイ、カザネ。先にいる風香と仲良くね」
そう言うと、サーディは井戸に背を向け歩き出した。
しかし、少し歩いたところで立ち止まり、また井戸へと戻る。

「いけない、忘れる所だったわ」
サーディは懐からグローブを取り出すとそれを宙に放った。

銀光一閃。

グローブは切り裂かれ、それぞれ真っ二つになる。
もはやこのグローブは変身道具としての機能をなさないだろう。

「ふふ…」

サーディは破れたグローブを掴み、井戸へと放り投げる。
グローブは井戸のへりで一度跳ね、そして底へと消えた。

「ふふふ…、あはは、あはははははははは」

静かな森の中、少女の笑い声だけが響き渡る。
悪夢の幕開け、少女にとっては宴(うたげ)の幕開けだった。


【C-1:X4Y4/井戸の近く/1日目:午前】

【サーディ@アストラガロマンシー】
[状態]:健康
[装備]:ルカの双刀@ボーパルラビット(サーディの支給品)
    競技用ボウガン@現実世界(正式名:MC-1、矢三本、射程30m程度)
[道具]:デイパック、支給品一式(消耗品は略奪して多めに確保)
[基本]:嗜虐心を満たすために殺す(マーダー)
[思考・状況]
1.一人でいて、「自分より弱い相手」もしくは「強くても油断している相手」を殺す。
2.二人以上でも、明らかに自分より能力が低く、
  全員を逃がさず殺せそうなら殺す。例:りよな+早栗で二人とも有用な武器が無いときなど
3.でも結局はその時の気分次第。
4.シノブに問い詰められてもシラをきる気満々。
  証拠は既に井戸の底。

※シノブが変身できることを知りました
※オープンフィンガーグローブ(シノブの変身アイテム)は
 刀でバラバラにされ、井戸に捨てられました。

【神谷カザネ@まじ☆はーど】
[状態]:死亡
[装備]:ボロボロのセーラー服
[道具]:
[基本]:
[思考・状況]
サーディに斬殺されました。
井戸に放り投げられました。

【風香@アストラガロマンシー】
[状態]:死亡
[装備]:
[道具]:
[基本]:
[思考・状況]
サーディに斬殺されていました。
井戸に放り投げられていました。


【神谷カザネ@まじ☆はーど 死亡】
【旧風香@アストラガロマンシー 死亡】
【残り49名】


[あとがき]
ムチャクチャ長くなりました。あとで修正したくなったらどうしよう。
それと、ななよんさんのwikiで神谷カザネの立ち絵を見ることをお勧めしておきます。
感情移入度が上がるはずです。
しまった、支給品は一つとは限らないのか!
「強力な武器は基本的に一つしか支給品には含まれていない」と、
カザネとサーディは認識していたと脳内保管してください。
まだミスあるかも…。読点(、)が二つついている箇所を
既に読み返して発見してしまったんだぜ。

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