森中、奈々、遭遇


#盲目な姉#

「此処は・・・。」

このざわめき、この匂い、この感覚。

「森の・・中なの・・?」

私の世界には、姿がない。
花も、草も、木も、私の世界ではその姿をなくす。
土も、空も、星でさえも、私の世界には姿を現してくれない。
まるで私だけが世界の外へと放り出されたように、私の世界には姿がない。
――ただ一人、彼女を除いて。

「なより・・・。」

私は彼女の名を呟く。
何時も私の手を引いてくれる彼女。
何時も私に色々な匂いや音を教えてくれる彼女。
何時も私の世界と外の世界を繋いでくれる彼女。
しかしその彼女は今、私の傍に居ない。

「怖い・・・。」

彼女の居ない私は、世界の外へ放り出されたままだった。
ただ独り、姿のない世界を彷徨うのはとても心細くて怖かった。

「・・・でも。」

しかし、その恐怖よりも私にとって怖いものが1つある。
あの男、キング・リョーナの狂った”ゲーム”に巻き込まれた。
それが夢ではないことは、いつの間にか背中に背負わされた物の重みから分かる。
彼女もまた、あの男の手によって何処かに連れて来られているに違いない。
(なよりもきっと、巻き込まれてる・・。それなら、私は。)

「なよりを・・助けないと。」

私は彼女の手を引いてやれない。
私は彼女に色々な匂いや音を教えられない。
私は彼女と外の世界を繋いでやれない。
だから私は彼女に謝る。何度も何度も謝る。
――それぐらいしか、できないから。

『お姉ちゃんは悪くないよ。私、お姉ちゃんが大好きだから。』

私が謝る度、姿のない私の世界で姿のある彼女は笑顔で答えてくれた。
その笑顔の、とても可愛くて明るくて愛しいこと。
私はその笑顔を守るためならば、この命なんて消えてしまってもいいと思っている。
(なよりだけでも・・・助けないと!)

私は手探りで杖の代わりになりそうな物を探す。
すると、都合よく手頃なサイズの木の枝が手に触れた。
多分、あの男が嗜虐心を満たすための計らいなのかもしれない。
(・・・今はそんなことどうでもいい。兎に角、なよりを助けないと!)
私は木の枝を杖の代わりにして立ち上がった。
彼女のため、恐怖を押し殺して姿のない世界を進むことにした。

その矢先、近くに人の気配を感じた。
恐ろしく冷たいロボットみたいな感じを受けるが、問答無用で襲い掛かってくる様子はない。
そして、何となくだが悪人という感じもしない。私は思い切って、尋ねてみることにした。

「あの・・・妹を知りませんか?」

#無口な妹#

「森の中・・。」
気付けば私は森の中にいた。私は正直、森が嫌いだ。
というより、草木が生い茂っている場所は基本的に嫌いだ。
(虫多いし・・。)
一々反応するのが面倒なだけで、私は虫が大嫌いだ。見たくもない。
(・・・本当はそこまで嫌いというわけでもなかったんだけど。)
しかし、私が無反応なのが面白かったのか、かまってほしかったのか。
何処かの精神年齢の低い彼女に散々虫を嗾けられ、それ以来大嫌いになった。
(ヘビでも捕まえておこうかな?・・・その辺に居ればだけど。)

私はそんなことを頭の片隅で考えながら、バッグの中身を確認しはじめた。
今の私には、あのバカな彼女に積年の恨みを果たす前にやらなくてはいけないことがあった。
(こんな虫の多い場所に放り込んだあの男、絶対許さない。)
なんとしてもあの男を見つけ出し、蹴りの一発でもくれてやらないと気が済みそうにない。
そのためにも、何か武器が欲しい所だ。
できれば銃があればうれしい。しかし、私の願いは通じなかった。

「・・・弾だけって。」

反応するのは面倒なのに、これには反応せずに居られなかった。
弾丸だけ入れるとは、あの男は意外と芸が細かい。よほど私に蹴られたいようだ。

「んっ、バッカ・・・だっけ?」

次に出てきた肖像画は、確かそんな名前の有名人だった気がする。
使い物にならないことに変わりはないので、正式名称を思い出すのはまた今度にしておく。
そして最後に、ジッポライターが出てきた。
試しに1度火をつけてみた所、ガスはまだ十分あるらしい。赤く綺麗な炎を上げていた。
私は一応、ポケットに入れておくことにした。
(武器はない・・か。とりあえず此処をでよう。・・虫いだし。)

私は何となく出口と思った方角へと走り出す。
彼女に声をかけられたのはその道中だった。

『あの・・・妹を知りませんか?』

#姉の気持ち、妹の気持ち#

りよなに声をかけられ、奈々は一旦立ち止まる。

「・・・知らない。」

奈々はそっけなく一言返す。

「そう・・ですか。」

りよなは悲しそうな声で答える。
奈々はりよなのその様子に、ほんの少しだけ興味を持った。
『妹を知らないか』と言うことは、彼女は誰かの”姉”なのだろう。
考えてみたら、私の姉以外の”姉”と話すのはとても久しい。
しかも今目の前に居る”姉”は、私の知っている姉像とはかけ離れた”姉”だ。
奈々は少しだけ立ち入ってみることにした。

「探してるの?」
「はい。」
「・・・何で?」
「私の・・大切な妹だから・・。」

りよなにとって、それは当たり前の答えだった。
しかし、奈々にとっては予想もしていない答えだった。
(大切な・・妹・・・。)
私の知る限り、こんな状況でも妹を大切だと屈託無く答える”姉”は初めてだ。
それほどまでに彼女は妹を愛しているのだろう。どこかの誰かとは大違いだ。
(あんなヤツ・・・アンダーテール{しっぽ}を引っ張られてしまえばいい。)
私の姉は、多分私を探そうなんて考えていないだろう。益してや、大切だなんて答えるわけがない。
私は少しだけその妹が羨ましく思えた。

「・・・妹の名前は?」
「えっ・・・なより、です。」

りよなは彼女が妹の名前を尋ねてきたことが意外だった。
いざ話しかけてみたら予想通り、冷たいロボットみたいな感じの人だったからだ。
今までの経験上、この手の人間はあれ以上は立ち入ってこないと思っていた。
(もしかしたら、意外と暖かい人なの・・・かな?)
私はとりあえず質問に答えることにした。
あの男の言う支給品には確か、参加者全員の名前が書かれている名簿があったはずだ。
従って、名前だけは言わずともいずれ知られてしまうだろう。
それならばこの場で彼女に名前を伝えても、妹にとってマイナスにはならないはずだ。

「んっ。何処かで会ったら・・伝えとく。じゃ。」

奈々は『なより』という人物に、何となく会ってみたくなっていた。
りよなは『お願いします』と軽く頭を下げて奈々を見送る。
そうして、二人は別れた。

(・・・あっ。名前。)
奈々はふと、彼女の名前を聞くのを忘れていたことを思い出す。
しかし、すぐに名簿の存在に気付き走りながら名簿を調べてみる。
籠野かごの・・りよな・・。)
奈々は元々、こういうことには淡白な性格だ。
本来ならば、このタイミングで別れた相手の名前なんて思い出すわけがない。
奈々が思い出した本当の理由は・・・彼女自身にもよく分からなかった。
(・・・ちょっと、気になるな。でもまぁ、いっか。)

奈々は一人、何だか胸の奥にもやもやした物を抱えつつも森の出口を目指して走っていた。

【E−4:X2Y2/森の中/1日目:朝】

【天崎奈々{あまさき なな}@BlankBlood(仮)】
[状態]:健康
[装備]:ライター@○○少女(ガス十分、スカートの右ポケットに入れてある)
[道具]:デイパック、支給品一式
バッハの肖像画@La fine di abisso(音楽室に飾ってありそうなヤツ)
弾丸x10@現実世界(拳銃系アイテムに装填可能、内1発は不発弾、但し撃ってみるまで分からない)
[基本]:一人でいたい、我が身に降りかかる火の粉は払う、面倒くさがり、でも意外と気まぐれ
[思考・状況]
1.武器を探す
2.キング・リョーナに一発蹴りを入れる方法を考える
3.何となく籠野なよりを探してみる
4.仕方ないので涼子も探してみる(できれば積年の恨みもさりげなく晴らしてみる予定)

※籠野りよなと別れたものの、ほんのちょっとだけ気にかけてます
 籠野なよりにあったら姉が心配していたと伝えるつもりではいます
※籠野りよなと別れた場所から勘で西へと向かっていますが、北か南へ進路変更する可能性は高いです 

【篭野りよな{かごの りよな}@なよりよ】
[状態]:健康
[装備]:木の枝@バトロワ(杖代わりにしている)
[道具]:デイパック、支給品一式
リザードマンの剣@ボーパルラビット(本人は入っていることに気付いていない)
[基本]:対主催、なよりだけでも脱出させる
[思考・状況]
1.籠野なよりを探す
2.脱出方法を考える

※籠野りよなが巻き込まれていることは確認していませんが、巻き込まれていると直感しています
※落ち着いて考えられそうな場所を探しています

@後書き
りよなは生まれつき目が見えないということにしてしまいました。
違っていたらすみません。(−−;
奈々を書くのは意外と難しかったです。
ちなみに、彼女の『引っ張られてしまえ』と『尻尾をぐいっと』は同タイミングでおきていたことを補足させていただきます。(ぉ


次へ
前へ

目次に戻る




inserted by FC2 system