始闘−タクティクス−


「(・・どうやら、ここまでは成功のようだね。)」
「(そう、思いたいわ。)」

―黒いセミロングの女性は、一人その場で佇んでいた。―
事情を知らない者が今の彼女を見たら、必ずこう思うだろう。
しかし彼女はその時、会話をしていた。
会話の相手は、彼女の心に棲む・・・能天気な宇宙人。

「(エリねえは心配性だなー。大丈夫だって、アタシが言うんだから信じなさいよー!)」
「(貴女が言うから、信用できないのよ。イリス。)」

エリねえと呼ばれた女性、エリナはさらりと切り返す。

「(なんだとー!アタシ、泣いちゃうぞー!)」

ワケあって彼女に憑いた能天気な宇宙人、イリスはえーんえーんと態とらしい泣き真似をする。

「(・・・食料と、水はとりあえずOKね。時計も・・動いてるわ。)」
「(あ゙っ!無視するなんてひどーい!エリねえのバカぁ〜!)」

喚き散らす彼女をよそに、エリナは手早く自分の荷物を確認する。

「(・・って、エリナ。それ。)」
「(・・・嫌な予感がするのね?)」

まず出てきた物。イリスが早速反応を示すのだから、何らかの”力”が宿った物なのだろう。
それもこの反応では、少なくともあまり褒められた代物ではなさそうだ。

(・・見た目は、悪魔的デザインの単なる首飾りね。)

「(どうやら、持ってるだけで呪われたりするという感じの代物ではないね。・・使ってみる?)」
「(そうね・・。)」

もし、この首飾りが災厄を呼び起こす類の物でも、今ならば犠牲者は私一人だ。
彼女達を巻き込む心配はない。
それに、この状況ではできる限り効果の分からない品物は持ち歩きたくない。
エリナは首飾りに意識を集中させてみた。

「わっ・・。」

思わず声が漏れる。
エリナが意識を集中した途端、首飾りだった物が赤と青のサイコロに変わったのだ。

(もう少し、試してみよう・・。)

エリナはまた少し意識を集中させる。
すると今度は、自らが変身後に用いる武器に似たような形に変わった。

「(キミの意志に応じて形を変化させる首飾り・・ねぇ。キミに似合いそうだ。)」
「(・・かもね。)」

本来ならエリナは、状況に応じて戦い方を柔軟に変えてゆける万能型の戦士に変身することができる。
そういう意味では、自らの意思で様々な形に変化するこの首飾りはとても助かる道具であった。

「(・・・でも、できれば使いたくはないわね。)」
「(ほほぉー、それまた何で?)」
「(嫌な感じが、するのよ・・。)」

エリナはこの首飾りから、何故かとても禍々しき物を感じていた。

「(・・・キミらしくない。キミは感覚で物事を決めるタイプじゃなかろうに。)」

イリスは急に声のトーンを低くし、エリナに反論した。

「(確かにらしくない、わね。)」
「(じゃあ、聞かせてよ。何で?)」

こういう時、イリスはエリナのことを本当に心配している。
エリナにもそれが分かっている。だからこそ、今一度この髪飾りについて真剣に考えている。

「(そうね・・まず、私は殺し合いになんて乗るつもりはないわ。)」
「(そして、これが普段は首飾りの形をしているから。と言うのも考えているわ。)」
「(ほぉー。)」
「(・・これが、武器に変わるなんて誰が想像できて?貴女にでさえ分からなかったのに。)」
「(頻繁に使っていたら、いざという時に既にバレているかもしれないわ。)」
「(なるほど、確かにそれは一理ある。・・・OK、エリナ。任せるよ。)」

イリスもエリナの気持ちは分かっていた。
それに、エリナがそんな気持ちだけで判断しないことも分かっていた。
しかし、状況が状況なだけにどうにも確かめておきたかったのだ。

「(・・まったく、どっちが心配性よ。)」
「(あちゃっ!バレてた?たはははー・・)」

エリナとイリスの会話は何時もこんな感じだった。
一見、折り合いの悪そうなこの組み合わせは実は見事なまでに調和がとれていた。

その後、ハロゲンライトと巫女服が出てきた。
この二つはどちらも特に何事もなさそうだったので、手早く調べてバッグへと戻す。

「(巫女服って、カザネちゃんにあげたら喜びそうだね♪)」
「(そうね。多分、貰って30秒で着替えるわ。)」
「(だぁね、『かーわいー!!vvvv』とか言って飛び跳ねる姿が目に浮かぶよ。)」
「(・・そうね。)」

エリナは実の妹のように面倒を見ている少女が、巫女服ではしゃぎ回っている姿を想像してみた。
こんな状況じゃなかったら、素直に笑えただろう。エリナはそう思った。

「(さて・・じゃあ向かいますか。)」
「(そうね。場所は・・アクアリウムね。カザネなら迷わず此処を選ぶと思うわ。)」


・・・・エリナはあの場所でのルール説明が終わる少し前、カザネとその友人、シノブに出会っていた。

(こんな広くて暗い場所で、それも、対して周りを見回す時間も無かったのに出会えた?)

カザネとシノブは素直に喜んでいたが、エリナだけは違和感を感じていた。

(・・・これは、偶然なんかではないわ。)

もしこの場で出会えなかったら、私達はお互いの存在に気付いて作戦を考える前に全滅していたかもしれない。
彼にとっては恐らくはそうなった方が嬉しいはずなのだから、出会えないようにしてあっても不思議ではない。
しかし、私達はこの場所で出会えた。

(彼は、私がこの場で作戦を立てるであろうことも計算している・・。)

そう考えるのが妥当だった。
そしてこの首輪にあると言う盗聴機能で私達の作戦を聞き取り、先手を打ってくる可能性は高い。

私がこの場で作戦を考えるのならば、まず合流方法を考える。
そして彼は望めるのならば、私達にも殺し合いをさせようと考えている。
自分で言うのも何だが、彼女達に比べれば私は常に冷静さを保っていられるだけの度胸はあると思う。
彼もそれは承知済みだろう。それならば、彼がとりそうな対抗策は・・。

(・・私の指定する合流場所付近に私を配置して、その付近に殺人狂を配置しておくこと、ね。)

こうすれば、私は合流地点近くで死ぬ可能性が高くなり、
後で合流してくるであろう二人に私が死んだことを見せやすい。
私が死んだことを知れば、あの二人は取り乱し殺し合いに乗ってしまうかもしれない。

より確実さを重視するならば、私と殺人狂の配置をずばり合流場所することだ。
しかし、彼は私と殺人狂の配置をずばり合流場所にすることはまずない。
彼の言動から察するに、彼は態と『自分の思い通りにならないかもしれない状況』を作る。
そして、それを『結局自分の思い通りにする』ことで快感を得るタイプの人物だ。
彼は合流地点から態と少しずらすことにより、『思い通りにならないかもしれない状況』を作ろうとするはずだ。

(・・そのまま、思い通りにならなくしてあげるわ!)

私に付け入る隙があるとすれば、彼のそういう部分だ。
そこで私とイリスはスタート地点に飛ばされる間際、ある作戦に出ていた。

「二人とも、笠原町に近い施設を目指して。」
「(アリアちゃん、マインちゃん。地図の中央から一番近い施設に誘導して。周りにバレないようにね。)」

・・・そして、結果。
私は笠原町に近い見た目の町が近くに見える草原に居た。
彼が私の予想通りの行動を取っていたのならば、ここまでは私の作戦通りだ。

「(・・まぁ、『”テレパス”の会話内容は聞き取れない』という前提条件があってこそだけど。)」
「(・・・そう、ね。)」

彼、キング・リョーナは私達の素性を知っている。二人はそう考えていた。
確かに、殺し合いに直接的に使えそうな道具や武器がゲーム開始前に没収されるのは分かる。
しかし、私の首に提げてあったロケットまでもが没収されている。
あんな物、殺し合いの場ではまったく使い物にならないはずだ。
普通に考えれば態々没収するほどの物ではないと判断するだろう。

それなのに没収されていると言うことは、彼に私達の素性は割れていると見た方が懸命だ。
素性が割れているのであれば、当然”テレパス”についても知っているはずだ。
”テレパス”の会話内容が盗聴されている可能性も十分にありえる。

(満たすべき条件は、それだけじゃないわ・・・。)

更に言えばあの場のざわめき具合からして、恐らくは私と同じように巻き込まれた者なのだろう。
それならば、全員が殺し合いに乗るような殺人狂ではないはずだ。
道中出会う人物全員から命を狙われるようなことはない、合流を目標に行動するぐらいの余裕はあるはずだ。
この作戦はそういう仮定の上に成り立っている。
もし他の者が全員殺人狂であるのならば、私達は適当な場所に配置され合流を考える余裕もなく各個撃破されるだろう。
結局の所、今の私には自ら立案した作戦を信じ、二人の少女の無事を祈ることしかできないのだ。

(・・・カザネ、無事でいて。)

「(・・・エリナ、やめといた方がいい。付け入る隙を与えることになるぞ。)」
「(・・・分かっているわ。)」

しかし、イリスの不安は拭われなかった。
エリナは本人が思っている以上にカザネに肩入れしているのだ。
イリスが本当に懸念しているのはそこだった。

(分かってないよキミは・・。そういうトコだけは、バカ正直過ぎる。)

ご丁寧に変身道具を没収するようなヤツのことだから、彼女のこの弱点を見逃すはずがない。
もう既に手を打たれている可能性は高い。そうなれば恐らく彼女は・・・。

(・・・アタシはキミの行動を助けることはできても、キミの行動を止めることはできないんだぞ。)

イリスは不安を掻き消すように、明るい声で寡黙な宿主に出発を促した。
エリナはその声に少し呆れながらも何も言わず歩き出す。
目的地で二人の少女と無事出会えることを祈りながら――

【A−3:X2Y2/町近くの草原/1日目:朝】

【富永エリナ{とみなが えりな}&アール=イリス@まじはーど】
[状態]:健康
[装備]:運命の首飾り@アストラガロマンシー(首から提げて、服の中にしまっている)
[道具]:デイパック、支給品一式
ハロゲンライト(懐中電灯型)@現実世界(電池残量十分)
巫女服@一日巫女
[基本]:対主催
[思考・状況]
1.アクアリウムに向かう
2.あの男を倒す方法を考える

@後書き
頑張ってみましたが・・やはり頭の悪い自分にはこの辺りが限界でした。(^^;

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