とりあえず餓死は免れたようです

 
鈴音は八蜘蛛を背負って、地図に『昏い街』と書かれた街を目指して歩いていた。

しかし、幼い少女とはいえ、人一人とそれなりの重量のデイパックを2つも背負って
いるせいで、どうしても足取りは遅くなってしまう。
途中、何度か休憩を挟んだこともあって、街に着くまでに思ったよりも時間がかかってしまった。

ようやく街の門を潜った鈴音はすぐ正面に宿屋を見つけたので、その宿屋に入って背中の少女を
休ませることにした。




「よいしょ……っと……。」

少女をベッドに寝かせて、人心地ついた鈴音は椅子に座って息を吐く。
ぼんやりと窓を眺めながら、この殺し合いについて考える。

「……どうすればいいのかなぁ……。
 殺し合いなんてしたくないし……でも、ここから逃げだすのも無理そうだし……。」

先の見えない状況のせいで徐々に考えが暗くなり始め、慌てて頭を振る。
暗くなっても仕方がない。とにかく今はこの少女の意識が戻るまで休むことにしよう。

「もしかしたら、休めば良い考えも浮かんでくるかもしれないしね。」

鈴音は自分の考えにうんうんと頷く。
実際は現実逃避に近い考えだったのだが、この状況においてはあながち間違いとはいえないだろう。
ごく普通の18歳の少女に、この恐るべき殺し合いを打破するための考えなど簡単に
浮かぶわけはないし、疲労した頭では余計にろくな考えも出てこないだろう。
それよりは疲れた身体を休めるほうが有益というものだ。

そこまで深くは考えていたわけではなかったが、ともあれしばらくは休むことにした鈴音は
窓をぼーっと眺めながら思う。

(それにしても変な街だなぁ…武器屋とかあるし、まるでゲームみたい…。)

そこまで考えたところで、鈴音は自分が空腹であることに気付いた。

「そういえば、ここに連れて来られてから何も食べてなかったっけ…。」

支給された時計を見ると、ゲーム開始からそれなりに時間が経っていた。
朝食を取っていなかったことを考えれば、空腹を意識するのも仕方の無い時間だろう。

「今のうちにゴハン食べておこっと。」

空腹だと気が滅入るし、あんなことがあった後なのだ。食事でもして気分転換しよう。
そう考え、鈴音はデイパックからパンを取り出して頬張り始める。

「…なんか、味気無いなぁ…。」

水を一口飲み、胃の中にパンを流し込みながら鈴音は呟く。
不味いわけではない。しかし、ひどく味気の無い食事に現代っ子である鈴音は不満だった。
ふと、ベッドで寝ている少女のデイパックにチョコレートがあったのを思い出す。
だが、ぶんぶんと頭を振ってその考えを振り払う。

さすがに、気絶している子供のお菓子をとるのはいかがなものか。

とはいえ、殺人鬼との遭遇、そしてここまで少女を運んできた鈴音は肉体的にも
精神的にも疲労している。
そんな鈴音には、少女のデイパックに入ったチョコレートはとても魅力的である。
ぱさぱさしたパンを水で流しこむ作業のような食事も、チョコレートがあるだけで
かなり違うことだろう。

「…っていうか、この子を助けたのは私なんだから、ちょっとくらいは…。」

そして、鈴音はとうとう誘惑に負けて、子供のお菓子を奪うという暴挙に出ようと…。


ギシッ……ギシッ……。


「っ……!?」

しかし、階段が軋む音が聞こえてきたことで鈴音の身体は凍りつく。

(誰かが上がってきた……!?ど……どうしよう……!?)

ここにいるということは、殺し合いの参加者であることは間違いないだろう。
重要なのは、相手が殺し合いをするつもりなのか、そうでないのかということだ。
殺し合いに乗っていなければ問題は無い。
信頼できそうな人なら一緒に行動したいし、そのほうが鈴音もこの少女も安全である。

しかし、階段を上がってくる人物が殺し合いに乗っているならば…。

「……この子を連れて逃げるのは無理だし……置いていくわけにも行かないよね……。」

鈴音は支給された銃……南部を構えて、侵入者の元へと向かっていった。
 

グキュルルル……。

「くっそー……!まさか、デイパックを間違えて持ってきてたなんて……!」

変な動物の鳴き声みたいな音を鳴らし、巨大なハンマーを引きずりながら
よろよろ歩く少女の名は美空 桜。
鳴っている音は彼女の腹の音である。

年頃の少女が奇怪な音を腹から出しながら間抜け面でよろよろ歩く様は、実に度し難い。
百年の恋も冷めるような無様さである。

「ていうか、何で食料が少しも残って無いんだよ!?全部食っちゃったってことか!?
 まだ半日も経ってないのに、何考えてんだよあのトカゲ!?
 いや、トカゲにそんなこと言っても仕方ないし、別にトカゲが悪いわけじゃないけどさ!
 ていうか、ぶっちゃけ悪いのはデイパック間違えた私だけどさ!」

大声でグチグチと不満をぶちまける桜。
竹を割ったような性格の桜には珍しいことと思われるかもしれないが、
いかんせん彼女は空腹なのだ。
空腹は人をイラつかせ、心に余裕を無くさせる。
加えて、この異常な状況で食料を紛失するという事態に桜もいささか動転しているのであろう。

「あー……腹減ったよー……。
 伊予那ー、メシー、メシー、伊予那ー、メシー。」

訂正。
だらんと猫背になり、半目であーうーと呻きながらのろのろ歩く桜の姿は全く動転している
ようには見えなかった。
そして、どうでもいいが伊予那の名前よりメシのほうが多いのはどういうわけだろうか。

そんな感じでだらだら歩いていた桜だが、ようやく森を抜けることができた。
目の前には、街。

「!」

桜の目がギラリと輝く。


現在の桜の思考 【街 → 食料がある → メシ食える】


「うおっしゃあぁぁーーーメシだぁぁぁーーー!!」

桜は先ほどのだらけ具合もどこへやら、イノシシのごとくの勢いで『昏い街』へと
かっ飛んでいくのだった。


恐るべきスピードで街の門を走り抜けた桜は、門から一番近い宿屋に一直線に駆け込んだ。

「メシ!メシ!」

大声でメシメシのたまう桜。
もはや女子の嗜みなど完全に忘れている。
最初からなかったかもしれないが。

しかし、宿屋に駆け込んだ桜の目には食料らしきものは全く見つからなかった。
唯一食料と関連があるのは、棚にいくつか置かれた酒瓶だけである。
もっとも、全て空だったが。

「……メシは……?」

呆然と立ち尽くす桜さん、ちなみに若干涙目である。
だが、しかし……。

「!?……この匂いは……!」

空腹で研ぎ澄まされた桜の嗅覚は二階でかすかに香る食物の匂いを嗅ぎ付けた。

「二階か……くくく、待ってろよ私のメシ!!そこを動くな!!」

桜は意味不明なテンションで二階を駆け上がり、食料の匂いのする部屋へと……。

「動かないで!!」

入る前に、部屋の前に立っていた少女に銃を突きつけられ、両手を上げて固まってしまった。
 

鈴音が部屋を出て侵入者を迎えようとしたときには、侵入者は物凄い勢いで
こちらに向かってきていた。

その表情は鬼気迫っていた。

目を見開き、口元に不気味な笑いを浮かべて向かって来る侵入者の姿は
鈴音にとって恐怖を覚えさせるに充分なものであり、鈴音はその侵入者に向かって
反射的に銃を突き付けていた。

「動かないで!!」

口に出した後、『あ、今度はちゃんと言えた。』と呑気な感想を覚えながらも
鋭い視線で侵入者……良く見ると、まだ自分よりも幼い少女であるその人物に銃口を
向けて威嚇する。

「ちょ……ちょっと待った!?落ち着け、私は何もしないって!?」

少女は必死で弁明しているが、鈴音は疑いの眼差しを向けている。
あんな恐ろしい顔でハンマー片手にこちらに向かってきたのだ。
信じられるわけがない。

しかし、そのとき……。


グキュルルルル……。


再び鳴る、桜の腹。

訪れる沈黙。
呆気に取られる鈴音。
さすがに人に聞かれたのは恥ずかしかったのか、顔を赤くしている桜。

やがて、先に喋りだしたのは桜だった。

「えーっと……悪いんだけど、食べ物恵んでくれない……?」




結局、鈴音はあの後、桜に対する警戒を解いて部屋に招き入れた。
桜が殺気立っていたのは単に腹が減っていただけだということが分かったからだ。

そんなわけで、鈴音は桜と一緒に食事を再開し、そのついでにお互いの情報を
交換することにした。

「伊予那ちゃんか……ごめんね、私はこの子と殺し合いに乗ってる金髪の女の人しか見てないの。」
「そっか……。」

鈴音の言葉に落胆する桜。
そんな桜を見て、鈴音も気の毒に思う。
聞けば、桜はこんなところに友達まで連れてこられているというのだ。
さぞかし心配なことだろう。

そして、次に桜の出会った人物のことを聞いた鈴音は耳を疑った。

「えーと……手から光の弾を撃つ男の子と二本足で歩くトカゲって何?」
「何って言われても、そのまんまだよ。
 後、触手を伸ばしてくるスライムにも会った。」
「……えー……?」

桜の出会ったという参加者は、全員が全員とも鈴音の常識では考えられない人物?ばかりだった。
信じられないのも無理は無いだろう。
疑わしげな目を向ける鈴音に、桜は少し不満そうな顔で言う。

「そりゃ信じられないかもしれないけどさ……でも、世の中にはそういうヤツもいるんだぜ?
 私だって幽霊に乗り移られたこともあるし、伊予那だって霊感とか持って……。」
「幽霊!?会ったことあるの!?」
「うわっ!?」

いきなり目を輝かせて顔を近づけてきた鈴音に、桜は仰け反る。

「どんな幽霊だったの!?乗り移られたってどういうこと!?
 伊予那ちゃんの霊感ってどんなものなの!?何か見えたりするの!?」
「ちょっ……!?鈴音さん、顔近いって!落ち着いてよ!?」

オカルト好きのスイッチが入ってしまった鈴音は、機関銃のごとく桜に質問を浴びせまくる。
そんなこんなで結局、桜が廃病院の事件について全て話し終えるまで鈴音は落ち着いてくれなかった。




「……ご……ごめんね……!私、ああいう話とか好きで、つい……!こんな状況なのに……!」
「いや、謝らなくてもいいって、鈴音さん!弘治さんそっくりのスライムがいるんだし、
 話しといたほうが良かったとは思うからさ!」

我に返って平身低頭で謝る鈴音に、桜は慌ててフォローを入れる。

「とりあえず、気を取り直して情報交換を続けようよ!
 そうだ、支給品とかも確認しといたほうがいいだろ?
 いざというときに、お互いの持ってるものが分からなかったら困るしさ!」
「あ……う、うん!そうだね、そうしよう!」

桜と鈴音はデイパックから支給品を取り出して並べていく。


桜が持っていたのは、巨大なハンマーとファイト一発というドリンクが二つ。
ファイト一発は、説明書によると疲労を回復できるドリンクらしい。

「ま、栄養ドリンクみたいなもんかな。」
「みたいだね……でも、こういうものって割と重要かもしれないよね。」
「うん、ここでは疲れが溜まったりすると結構やばいだろうしな。」

次は鈴音の支給品を確認する。
鈴音の支給品は大型自動拳銃の南部、そして文庫本程度の大きさの指南書だった。

「今まで読むヒマがなかったから、放っといたんだけど……。」
「何々……『ラーニングの極意』?」

桜はそのラーニングの極意と書かれた本をぱらぱらと流し読みしてみた。

「へー、受けた敵の技を覚えることができるんだってさ。」
「て……敵……?技……?」
「いや、ホントかどうかは分からないけどさ。
 でも、やり方は分かりやすく書かれてるし、結構いけそうな感じだよ。
 上手くいけば、さっきの男の技とか奪えるかもしれないし。」

桜は笑いながら言うが、鈴音にはさっぱり意味が分からない。
返してもらったラーニングの極意を鈴音も読んでみたが、さっぱり理解できなった。

(どこが分かりやすいんだろ……やっぱりただのハズレだよ、この本……。)

鈴音にはこの本はでたらめのトンデモ本で、ただのハズレとしか思えなかった。

最後に未だに目を覚まさない少女の支給品を確認する。
出てくるのは、チョコレートのみ。

「食っていい?」
「駄目、この子のなんだから。」

チョコレートに手を伸ばそうとする桜を抑える鈴音。
自分も食べようとしていたことは忘れることにしたらしい。

一通りの情報を確認し終えた鈴音は、時計を見て気付く。

「……そろそろ、あの男の言ってた放送の時間だね……。」

その言葉に桜がぴくっと反応する。

「伊予那……大丈夫だよね……。」
「きっと大丈夫だよ。私たちだって無事だったんだから。」

心配そうに呟く桜を鈴音が励ます。
桜の顔は今までとは違い、不安そうだった。
放送が近付いてきたことで、心配になってきたのだろう。

(無理もないよね……。)

桜は鈴音より4つも年下だとは思えないほど、行動力があってしっかりしていると思う。
だが、それでもやはり大切な友達の生死を知らせる放送が近付いてくれば、
落ち着かなくなるのは当たり前だろう。

(もし伊予那ちゃんの名前が呼ばれたら、私がこの子を支えてあげないと……。)

殺人鬼から助けた少女も未だに目を覚ます様子はないし、この上に桜まで
再起不能になってしまったらと思うと不安でしょうがない。
しかし、この中では自分が一番年上なのだ。
やれるだけのことはやってみるしかないと、鈴音は決意する。


それからしばらくして、どこからともなく不快な声が響き渡ってきたのだった。




【D-3:X3Y1/昏い街・宿屋二階/1日目/昼】

【美空桜@一日巫女】
[状態]:小ダメージ、小疲労、ラーニング習得
[装備]:モヒカンハンマー@リョナラークエスト
[道具]:デイパック、支給品一式(食料2/6、水5/6)
ファイト一発*2@リョナラークエスト
[基本]:伊予那を探す・助ける・協力する(伊予那に害をなす奴を倒す)
[思考・状況]
1.伊予那を探す

※サーディの顔は脳裏に焼きつきました。出会えば「夢」の人物だと分かるでしょう。
※リョナたろうをマーダーと認識しました。
※リザードマンを殺し合いに乗っていない優しいトカゲと認識しました。
※特殊な能力を持つ参加者の存在を知りました。
※1日目の昼時点で鈴音と情報交換をしました。
 エリーシアをマーダーと認識しました。
※ラーニングの極意を読んだことでラーニングを習得しました。
 自分が受けた技(魔法以外)をラーニング可能です。


【八蜘蛛@創作少女】
[状態]:気絶
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式
チョコレート@SILENTDESIREシリーズ
[基本]:ステルスマーダー
[思考・状況]
1.エリーシアを殺す。
2.人間を養分にする。
3.萩、ロシナンテと合流する。
4.門番が自分の知っている門番か確かめる。


【榊 鈴音(さかき すずね)@鈴の音】
[状態]:健康
[装備]:南部(残弾4)@まじはーど
[道具]:デイパック、支給品一式(食料2/6、水5/6)
ラーニングの極意@リョナラークエスト
[基本]:何とか殺し合いから脱出したい。
[思考・状況]
1.殺し合いに乗ってない人を探して、一緒に行動する。

※エリーシアを危険人物と認識しました。
※一日目の昼時点で桜と情報交換をしました。
 リョナたろうをマーダー、リザードマンを優しいトカゲ?と認識しました。



【ラーニングの極意とラーニングについて】
ラーニングの極意を読むことで、相手から受けた技を
覚えることができるラーニングを習得することができます。
ただし、ラーニングを習得するには特殊な才能が必要です。
(鈴音は覚えることができませんでした。)
また覚えることのできる技は一つだけで、二つ目を覚えた時点で
前に覚えていた技は忘れてしまいます。
魔法は覚えることができません。
(ただし、作品ごちゃまぜの本ロワでは魔法の定義・基準は曖昧なので、
 魔法と明言されていない技は覚えることができる可能性があります。)

ラーニングはリョナクエ勢ではリョナたろうしか習得できません。
リョナクエ以外のキャラがラーニングを習得できるかどうかは書き手の方にお任せします。

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