えびげんは未だに銃を解体して遊んでいた。
「ふむふむ、なるほど〜……ここはこうなってて、ここはこんな感じ〜……。
うふふふ、幸せ〜♪」
えびげんは殺し合いという状況を忘れて、幸せそうに笑いながら銃の部品を眺めていた。
「あ゛ーあ゛ー、てすてす。・・・ふぅ、ようやく繋がった。
ったく、そろそろコレ買い換えないといけないなぁ。」
その声を聞いて、はっと我に返る。
「……え?うそ、放送?」
慌てて時計を取り出して、時間を確認する。
「!?……や……やばっ……もうこんな時間!?」
初香にお使いを頼まれてから、5時間近く経過していた。
えびげん、焦る。
あのお子様は、自分が銃で遊ぶのに夢中になって戻るのに遅れたことを知ったら、
めちゃくちゃ怒るだろう。
いや、その程度ならまだいい。
別れてから経過してしまった時間を考えると、いくら武装が充実しているとはいえ、
あの少女は殺されていてもおかしくはないかもしれないのだ。
(し……しまったぁぁ〜〜!?
こんな殺し合いで、子供を放っといて私は何してるのよぉ〜!?)
えびげんは後悔する。
どうにも、あの初香という少女は図太さやふてぶてしさが目立ってしまって
失念していたが、彼女はまだ子供なのだ。
いくら彼女の武装が充実しているからといって、子供一人を放っておいて
銃で遊び呆けているとは何事か。
「……あ」
そこで、えびげんは気がつく。
すでに男の声が聞こえなくなっていることに。
「放送聞き逃した〜〜!!?」
涙目で頭を抱えるえびげん。
駄目だコイツ……早く何とかしないと……。
「うるさいっ!放っといてよ!」
えびげん、ナレーションに突っ込みを入れつつも焦る。
「ど……どうしよう……!
これじゃ初香ちゃんが生きてるかどうかも分からないし、
禁止エリアに運悪く足を踏み入れでもしたら……!」
えびげんはどうすればいいのか分からず、ひたすら悩む。
だが、結局は腹をくくることにした。
「こんな状況になったのは私の責任……。
なら、せめて今からでも迅速に行動しないと……!」
そして、えびげんは銃を数分で組み立て直すと、初香の待つ国立魔法研究所に
急いで向かうことにした。
森の中を進むのは、先ほどダージュに痛めつけられ、ディレイ・スペルを
その身に刻まれた美奈である。
美奈はいつ自分に刻まれたディレイ・スペルが発動するかと気が気ではなかった。
放送が流れてきたが、禁止エリアだけを記憶に留め、後は全て無視する。
よけいなことに意識を傾けている余裕など、今の美奈には無いのだから。
「魔術師……!どこよ、魔術師……!?」
骨折した左肩の痛みを堪えながら、ひたすら魔術師を探して森の中を彷徨う美奈。
「うぅぅ……何でよ……!何で、私がこんな目に合わないといけないのよぉ……!
誰か助けてよぉ……!」
次の瞬間には、ディレイ・スペルが発動して死ぬかもしれない。
そんな恐怖と緊張を強いられる今の状態は、精神力があまり強くない美奈には酷だった。
元々精神的に疲労していたところを痛めつけられたせいもあって、美奈の心はすでに限界なのだ。
身体の痛みを堪えて泣きながらよろよろと歩く美奈は、その場に彼女の姿を見る者がいれば、
憐憫の情を抱いたかもしれない。
だが、幸か不幸か周りには、彼女を助けてくれる者も彼女を殺そうとする者もいなかった。
やがて、森を抜けると西洋風の建物が見えてきた。
(あそこなら誰かいるかも……でも、もし殺し合いに乗ってるやつがいたら……)
先ほどダージュに痛めつけられたことを思い出し、美奈の恐怖がぶり返す。
だが、このままでも結局は遅延魔法が発動して自分は死ぬだけだ。
(だったら……行くしかない……)
美奈は萎えそうになる心を無理やり鼓舞させ、足をひきずるように動かしながら建物へと
歩みを進めて行った。
「おい……何の冗談だよ……?」
呆然とした表情で呟くダージュ。
「なんで、オルナの名前が放送で呼ばれてんだよ……?」
先ほどの放送による死者の発表。
その中には、自分が痛めつけ、屈服させ、ありとあらゆる苦しみと屈辱を与えて
殺してやるはずだったエルフの少女の名前が入っていた。
「……ふざけるなよ……」
ダージュは呟く。
その身体から怒気を滲ませながら。
「ふざけるなよ……!」
膨れ上がる怒気。
その怒りは何に対してのものなのか。
オルナか、彼女を殺したものか、はたまた自分自身か。
「ふざけるなよ、クソがぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」
天に向かって叫ぶダージュ。
そして、そのまま天を仰ぎ見た状態のまましばらく固まっていたかと思うと、
次の瞬間には引き攣ったように笑い出した。
「くっ……くっく……くはははっ……!
何でだよ……!?アイツは……アイツだけは俺が殺してやるはず
だったのによぉ……!」
ダージュは、狂ったように低い声で笑い続ける。
「……くく……殺してやる……!
オルナを殺したヤツ……オルナを殺そうとしたヤツ……
オルナに関わったヤツ……全員皆殺しだ……!
苦しめて苦しめて苦しめ抜いて、その上で殺してやる……!」
その表情に浮かぶのは、狂気。
生き甲斐ともいえる目的を奪われた彼が欲したのは、失った目的の代替物。
オルナの代わりとして、彼女と関わりを持った者たちに地獄の苦しみを与えるという、
あらゆる意味で歪んだ新たな目標を見出したのだった。
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