「この……しつこいわよ、アンタ!」
ルカは未だに黄土の巨人ルシフェルから逃げ続けていた。
すでに、エリーシアとりよなの居た場所からは充分離れた位置まで来ている。
ルカとしては、この辺でルシフェルを振り切って彼女たちと合流しておきたいのだが、
巨人はそれを許してはくれない。
後ろから迫る異形の巨人にプレッシャーを感じつつ、ルカはひたすら走り続ける。
だが、元々ダメージを受けていたルカには長時間走り続けることができるほどの
体力は残っていない。
さっさと後ろの巨人を何とかしないと、やがて体力が尽きたルカは殺されてしまうだろう。
そうこうしているうちに、先ほどエリーシアたちと出会ったときに見た巨大な塔が見えてきた。
(!……いつのまにか、戻ってきてたようね……)
逃げる方向などいちいち考えている余裕が無かったルカは、見覚えのある塔を見つけたことで
自分の現在位置をようやく認識できた。
(……よし、ここはあの塔を利用させてもらうわ)
ルカはあの塔の中に入り、ルシフェルをやり過ごすことを決めた。
塔の中がどのような構造なのかは分からないが、一本道ということはさすがに無いだろう。
今までのような見晴らしの良い平原よりは、巨人を振り切りやすいはず。
そう考えたルカは、塔の入口を探すべく塔の外周を回り始めた。
そして、外周に沿って走り続けたルカは塔の入口を発見する。
ルカはすぐさまその入り口へと入り込んだ。
(さあ、来なさい……ってアレ?)
だが、そこでルカは気がつく。
自分を追いかけていた巨人の気配が無くなっていることに。
(……罠かしら?)
ルカは角に隠れて気配を消し、用心深く周囲の気配を探る。
しかしその状態が10分近く続き、ルカはさすがにおかしいと感じ始める。
塔の外に出てみたが、周囲を見回してみても巨人の姿は見当たらなかった。
(どこに行ったの……?もしかして、諦めた……?)
もしそうなら問題は無いのだが、そこまで楽観的な考えはできない。
こちらを油断させるつもりなのかもしれないと、ルカは慎重な足取りで巨人を探す。
しかし、周囲を見回していたルカの鼻が微かな鉄臭い匂いを捉える。
(……まさかっ!?)
ルカの脳裏に浮かぶのは、最悪の考え。
それは、巨人が他の参加者を見つけ、なかなか捕まらない自分の捕獲を諦めて
その参加者を襲いに行ったのではないかということ。
そして、この匂いと経過した時間を考えるとその参加者はすでに……。
(嘘でしょ……!?また……また、私……!)
また守れなかったのか?
いや、もし自分の想像通りだとしたら、今回はなお悪い。
巨人をここに連れて来た自分のせいで、死人を出したことになるのだから。
ルカの全身を恐怖にも似た悪寒が駆け巡る。
焦燥に駆られたルカは全速力で匂いの発生源へと向かう。
やがて、ルカの視界に広がった光景は……。
「……あ……ああ…………!」
ルカはその光景を目にして、膝から崩れ落ちた。
そこには、全身の肉をぐちゃぐちゃに潰され、バラバラに解体された、
人間の原形を留めていない死体があった。
「そ……そんな……私……!私のせいで……!」
自分の行動のせいで、死人を出してしまった。
ルカの心は後悔と絶望に埋め尽くされる。
「……ごめん……ごめん、なさい……!ごめんなさい……!」
顔どころか、性別すら分からない有様となっている死体に、ルカは謝る。
その瞳からは涙が溢れていた。
誰一人守ることができず、それどころか自分のせいで死者すら出してしまった。
ルカはあまりにも不甲斐ない自分自身に、失望すら抱いていた。
(……こんなはずじゃ……なかったのに……)
ルカは思う。
これからどうすればいいのか。
(……そうだ、エリーシアとリヨナと合流しないと……)
だが、自分が合流してどうなる?
こんな自分が一緒に行動したところで、あの二人の役に立てるのか?
(……らしくない……!)
だが、その弱気な考えをルカは切って捨てる。
自分は人々を守るべき神官なのだ。
ここで足を止めるわけにはいかない。
ルカは立ち上がり、エリーシアたちの元へ戻ろうと歩き出した。
そのとき、ふとルカの視界の隅に長い棒のようなものが映る。
目をやると、杖が落ちていた。
(武器としてはちょっと頼りないけど……無いよりはマシよね)
人々を守るためには、武器が必要だ。
ルカはその杖を持っていくことにした。
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