許さない。
一人の少女の命を無慈悲に散らした。
殺し合いの場に女子供を引き摺り出した。
そして、何よりも、
ヤツは、「神」の名を騙った。
ルカは決意した。あの男、ゴッド・リョーナを、この手で切り裂くと。
「待ってなさい・・・本物の神様はあんたを許さない!」
「ん・・・まあ、これは使えるわね。」
決意表明を終えた彼女は、側に落ちていたデイパックを開けた。
憎きゴッド・リョーナに与えられたものであり、無視しようかとも思ったが、
武器と食料が無いと彼と対峙する時まで生き残ることも出来ないと思い直し、
やっぱり細かい事は気にしないことにした。
デイパックには、地図や名簿に加えて、軽めの長剣が入っていた。
質はそれほどでも無さそうだったが、得意な武器が手に入ったのは幸運と言える。
次に出てきたのは、装飾のついた瓶に入った水。
「あ、聖水・・・って、飲料扱い!?」
聖水といえば、彼女の知る限り、神に祝福され特別な力を得た水の事。
それを飲むなんてとんでもない。
「でも、喉が乾いたら飲も。」
それぐらい神様も許してくれるでしょ、と呟く。
このアバウトさがルカの強みであり、同時に昇級できない理由でもある。
「これは・・・リンゴ?」
そして、食料として入れられていたのは、見た目はリンゴの果物。
しかし、説明書きにはこう書かれていた。
『この実は禁断の果実です。
リンゴではありません。』
ルカは「明らかにリンゴじゃないの!」と思ったが、続きの文章を見て愕然とした。
『この実を食べると死にます。』
「そんなモノ食料として支給するな!」と言いかけた。
が、説明にはさらに続きがあった。
『ただし、100年以内に。』
最早、どこから突っ込んで良いか分からなくなったので、
このリンゴ(仮)自体をデイパックに突っ込んだ。
その直後、ルカは森の奥から飛んでくる気配を感じた。
悪魔や魔物の類とは異なるが、木々の間をすり抜けながら、
迷わずこちらに向かってくるその気配は、十分警戒に値する。
ルカは支給品の剣を構え、気配のした方を睨みつけた。
そして、
ズピャッ
彼女の足元に、一刀両断されたモモンガの死体が落ちる。
だが、これで終わりではない。
「来る!!」
彼女の経験上、人を襲うモモンガは群れで行動する事が多い。
程なくして、第二陣が現れた。
ズピャッ
ズピャッ
ズピャッ
今度は3匹。しかし、モモンガの攻勢はまだ続く。
ズピャッ
ズピャッ
計6匹のモモンガを葬った彼女は、
周囲から不穏な気配が消えたのを確認し、警戒を解いた。
その時、背後から男の声が聞こえた。
「後ろだ!」
「えっ!?」
ズピャッ
振り向くと、目の前には1匹のモモンガがいた。
それを反射的に切り捨てたルカは、全く気配を感じなかったことに疑問を抱きながらも、
お礼を言わなければと思い声の主を探した。
彼の姿はすぐに見つかった。
だが、その姿を見た瞬間、感謝の心は吹き飛び、警戒心で一杯になった。
真っ黒な身体に白装束、狐の面、ニヤけた顔、そしてただならぬ妖気。
明らかに怪しい。こんな状況でなければ真っ先に斬りかかるぐらいに。
「あんた、何者なの?」
一応、助けてもらった身なので、ルカは猜疑心を隠して、
とりあえず彼とコミュニケーションを取ろうとした。
だが、彼はそれには答えなかった。
「後にしようぜ。」
そう言って男は素早く4本のナイフを取り出し、ルカに向かって投げた。
とっさの事で回避行動も取れなかったルカだが、そのナイフは彼女に当たることは無かった。
代わりに、彼女の背後で何かに刺さる音がした。
ザクッ
ザクッ
ザクッ
ザクッ
恐る恐る振り返ると、そこにはナイフの刺さった4匹のモモンガの死体が転がっていた。
どうやら、また助けられたらしい。
ルカがこの数の相手に気づかなかった自分に落胆していると、男が声をかけてきた。
「奴らを片付けるまで、協力しねえか?」
本音を言えば、あまり関わりたくない相手だ。
見た目の怪しさもさる事ながら、彼女の第六感がそう告げている。
だが、状況から言えば二度も助けてもらった恩もあり、
共通の敵であるモモンガを協力して倒すのが妥当だろう。
「・・・ええ、分かったわ。」
ルカは、男の申し出を受け入れることにした。
ズピャッ
ザクッ
ズピャッ
ズピャッ
ザクッ
無言で振るわれるルカの長剣と男のナイフにより、二人の周囲にモモンガの死体が積み上がる。
その数、ざっと70匹。
それでもモモンガ達の攻撃は終わらない。
「はあっ、はあっ・・・」
「どうしたお嬢ちゃん?そろそろ限界か?」
「まさか!」
個々は弱いモモンガだが、これだけの数になると、さすがのルカも厳しい。
それでも気力を振り絞り、目の前の相手に斬りかかる。
ズピャッ
(さて、次にいくか・・・)
ザクッ
ザクッ
ズピャッ
ズピャッ
再び無言になり、モモンガの肉が切れる音だけが定期的に響く。
そんな状態がしばらく続いた後、男が声を上げた。
「なっ!あいつはっ!!?」
ドオン!
ほぼ同時に、男の足元で爆発が起きた。
それに気付いたルカが男に目を向けると、彼の足元の草が焼け焦げていた。
「竜・・・だと・・・!?」
そう呟く男の視線の先にいたのは、羽の生えたドラゴンだった。
サイズは小さいものの、火を吐いてくるのは厄介だ。
だが、ルカはこの相手への対処を心得ていた。
ダッ
即座に飛び上がって相手との距離を詰める。
彼女の記憶が確かならば、体内で炎を生成できる生物でも、
火を吐くと体温が下がるので、連射することはできない。
つまり、男に向かって火を放った直後の今が、最大の攻撃チャンスなのだ。
ズピャッ
ルカの目論見は成功し、あっさりとドラゴンの死体が出来上がった。
「まだだ!!!」
だが、男はさらに森の奥を指さす。
その先に見えたのは、ドラゴンの群れだった。
「くっ、ここは・・・逃げるっ!」
「いや、それは無理みたいだぜ。」
気がつくと、ドラゴンはあらゆる方向から迫っていた。
逃げ道を封じられた二人は、あっという間に取り囲まれる。
こうなると作戦は一つしかない。
相手の攻撃を回避し、その隙をついて一体ずつ片付ける。
「ちっ、厄介な連中だぜ。」
「安心しなさい。あんたが死んだらお祈りぐらいしてあげるから。」
ドラゴン達が一斉に炎を吐く。
それと同時に、二人は別の方向に駆け出した。
ズピャッ
ズピャッ
ズピャッ
モモンガの死体の上に、ドラゴンの死体が積み重なる。
ズピャッ
ズピャッ
ルカは危なげ無くドラゴンを狩っていた。
だが、突撃するしか能のないモモンガはそれに合わせて剣を振るだけで倒せたのに対して、
炎を吐くドラゴンは攻撃を回避し、さらに飛びかかって斬らないと落とせない。
当然、疲労の蓄積は大きくなる。
(そろそろか・・・)
ズピャッ
ズピャッ
ズピャッ
「もうっ・・・いったい何匹いるのよ!!」
モモンガ同様、単体ならば問題ない相手だ。
しかし疲労は肉体的にも精神的にも反応を遅らせる。
その結果、避けられるはずの攻撃が避けられなくなる。
「あづっ!」
炎が右足をかすめた。
大した傷にはならないが、ルカの動きが一瞬止まる。
「しまった!」
この状況で立ち止まるのは致命的だった。
ドラゴン達の視線が一箇所に集まり、同時に口を開いた。
「うああああああああああああっっ!!」
小さな体に無数の火の玉を浴びたルカは、その場に倒れて気を失った。
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